カテゴリー '過失相殺'
2010/11/26
交通事故による損害について加害者側に賠償を請求する場合、争いになりやすい問題の一つが過失相殺です。計算上の損害額がどれほど大きくなっても、事故態様によっては被害者にも大きな過失があるとされ、実際に支払われる金額が何割も減額されてしまうことがあるからです。
たとえば片方の信号が赤色の十字路で発生した直進自動車同士の衝突事故では、相手側が青信号だったか黄信号だったかによって、赤信号側の過失割合は2割も変わってきます。
最近のタクシーなどはドライブレコーダーを搭載していることがありますから、そうした場合には交通事故の瞬間を後から映像で確認することが可能ですが、こういった交通事故の瞬間を後で検証できるケースは特殊なケースだと言えるでしょう。一般的な交通事故案件では、事故発生時の細かな周辺状況は不明であったり、後で証明することが困難であったりということも珍しくないと思います。
このように事後的な証明が難しい上、最終的な損害賠償額に大きく影響してくるというポイントであるため、事故態様についての見解は、被害者側と加害者側で言い分がかなり食い違ってくることがあります。歩行者が自動車にはねられたような件であれば、例えば「自動車側が前方不注意で突っ込んで来た」「歩行者側が突然飛び出してきた」と言い合いになるわけです。加害者側からは、被害者の不注意をむやみに強調するような事実も主張されることもあるので、こうした場合は十分に反論を加えておく必要があります。
事故発生時の状況に争いがある場合、こちらの主張する事実関係を様々な証拠によって立証していくことになります。裁判所から刑事事件の実況見分調書などを取り寄せたり、場合によっては事故現場に出向いて資料写真を撮影したりすることもあります。目撃者や被害者ご本人などに対しては、裁判手続の中で尋問を実施し、その主張に矛盾がないか、信用できる内容かどうかを、裁判官が直接確認するということも行われています。
裁判が進んでいく中で、こちらで事前に考えていた事故状況と異なる事実を示唆する証拠が出てくることがあります。事故状況の理解について修正を迫られるような事態になれば、程度によっては裁判や和解の方針を再検討しなければならなくなることもありますから、最初から事故状況を正確に整理しておくことは大変重要です。
もし不幸にも交通事故に遭ってしまった場合、記憶が薄れないうちに事故状況を詳細に整理しておいて頂けると、その後の損害賠償請求における交渉や裁判をよりスムーズに進めることができるかと思います。
カテゴリー: 後遺症の損害 · 死亡事故の損害 · 過失相殺
2010/03/09
○岡山地判平成11年11月29日
加害者が、雨天時にタイヤが摩耗した車両を時速80キロで走行させた結果、車両を滑走させ、水銀灯に激突して同乗者が死亡した件
同乗者には、タイヤの摩耗状況を知っていたり、高速で運転するよう指示するなど、事故発生に特段の過失や寄与があったという証拠はないとして、好意同乗による損害の減額を否定した。
○東京地判平成7年12月7日
加害者が車両を高速で走行させ、カーブでハンドル操作を誤ってガードレールに衝突させ、同乗者が死亡した件
同乗者には、事故につながるような無謀な運転を誘発したり、容認するなどの帰責事由は認められないので、好意同乗として損害額を減殺することは相当でないと判断した。
カテゴリー: 後遺症の損害 · 死亡事故の損害 · 過失相殺
2010/02/12
○東京地判平成10年6月24日
運転者が飲酒していることを知りながら同乗し、遠距離を長時間ドライブしている途中、カーブを曲がりきれなかった自動車がセンターラインを超えて対向車と衝突、同乗者が死亡した件
同乗者は、本件事故発生に帰責事由があり、損害から30%を減額するのが相当とされた。
○大阪地判平成7年6月22日
友人の運転する自動車に同乗中、運転者が運転を誤り県道から転落、電柱に激突し同乗者が負傷した件
運転者が免許取得から1ヶ月半の初心者であったこと、徹夜後の疲労した状態であったこと、同乗者が高速運転を特に制止しなかったこと等に照らし、ある程度危険な運転を放置、容認して、その利益を得ていたと判断し、損害から15%を減額した。
○大阪地判平成10年6月25日
改造された上、右後輪のみ別種タイヤが装着されたコントロールしづらい状態の車両に同乗したところ、自動車がセンターラインを超え対向車と衝突、同乗者が死亡した件
状況を斟酌し、被害者の損害から40%を減額した。
カテゴリー: 後遺症の損害 · 死亡事故の損害 · 過失相殺
2010/01/06
過失相殺とは、損害の発生において被害者にも一定の過失があると認められる場合に、その過失割合に応じて損害賠償額が減額されることをいいます。
仮に損害総額が1000万円のケースで、被害者側に30%の過失があったと認定された場合では、実際に支払われる賠償金は30%減額されて700万円となってしまいます。
このように過失相殺は実際の支払額に大きな影響を与えるため、交通事故損害額の算定において争点になりやすい項目の一つです。
過失割合の算定は、交通事故が発生した際の状況ごとに類型化された一般的基準を基本としつつ、具体的な事故の状況に基づいて加算減算する方式が通常です。
例えば信号機のない同幅道路の交差点で、直進するバイクと右折する自動車が出会い頭に衝突したような場合では、一般的にバイクの側にも30%の過失があるとされています。
そして実際の事故発生時、例えばバイクの側に著しい速度違反があったりすれば、過失割合が40%~50%に加算されることもあるわけです。
このように、具体的な状況によって過失割合を考えていくという手法は常識的なところかと思います。
なお赤信号で停止中に追突されたような場合などでは被害者側の過失0%ということも多いですが、交差点上で発生した事故においては、程度の差はあれ双方に過失ありとされることも多くなります。
事故に遭った方がよく口にされるように、「こちらは優先道路で、相手は一時停止線で停止しなかった」ような場合であっても、優先道路側の過失がゼロということにはならない場合もありますから注意してください。
カテゴリー: 後遺症の損害 · 死亡事故の損害 · 過失相殺