過去の記事 2009年12月
2009/12/21
民法711条は、生命を侵害された者の父母・配偶者・子について、固有の慰謝料請求権を規定しています。
交通事故の損害には、逸失利益や休業損害など経済的な損害のほか、傷を負ったことや後遺障害が残ったことによる苦しみ等の精神的な損害という側面もあり、これらを全て金銭に換算して損害額を算出することになります。
交通事故によって被害者が死亡してしまった場合、実際に損害賠償請求を行うのは被害者のご遺族となりますが、その場合の慰謝料額は「死亡した被害者本人の慰謝料請求権(を相続したもの)」と「被害者遺族の精神的損害に対する慰謝料請求権」の双方を含んだものになります。
では、被害者が「死亡」した場合でなければ、近親者の精神的損害に対する慰謝料は認められないのでしょうか。
この点、最判昭和33年8月5日判決は、被害者が死亡した場合に必ずしも限定せず、死亡に比肩するような精神的苦痛を受けたような場合には、その近親者にも固有の慰謝料請求権が生じうるとしました。
これは両下肢完全麻痺(東京地判平11.7.29)、植物状態(横浜地判平12.1.21)など、基本的には被害者本人に重度の後遺障害が残った場合に認められる損害項目です。
◎民法第711条(近親者に対する損害の賠償について)
他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。
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2009/12/21
逸失利益の算定基礎となる基礎収入は、基本的には事故前3ヶ月間の給与、または平均賃金などを基準に算出されます。
ただ、例えば25歳のサラリーマンが交通事故に遭って亡くなったような場合を想定してみると、順調に定年まで勤続していたとすれば、どこかの段階で一定の昇給があったと考えても不合理ではありません。そこで、亡くなった25歳時点で実際に受け取っていた給与をもとにして逸失利益を算定することは妥当なのかどうかが問題になります。
この点、全く昇給がなかったと考えることは不合理かもしれませんが、このご時世ですから解雇や減給の可能性も十分あると考えることも可能かもしれません。結局のところは可能性の話なので、はっきりした結論を出すことは誰にも出来ない部分です。
判例は、ある程度の勤続実績があり、安定した昇給が続いていたなど、客観的に昇給の蓋然性を立証可能なケースの場合には、逸失利益の算定にあたって将来の昇給を考慮することも許されると判示しました(最判昭和43年8月27日)。
この案件では、被害者(死亡時22歳)が死亡前月に受けた給与の額を基準とし、44歳までは同一会社に勤務している被害者と同程度の学歴・能力を有する者の昇給率と同じ程度の割合で毎年昇給するものとし、それ以後も定年となる55歳まで5%の昇給率で昇給を続けるものと考えて将来の給与額を算出した原審の判断が是認されています。
結局のところケースバイケースということですが、昇給体系や離職率などを具体的なデータとして提示できる案件であれば、被害者の職場にも協力を求めながら資料を集め、逸失利益の増額を主張していくことも十分検討する価値があるかと思います。
◎最高裁昭和43年8月27日第三小法廷判決
死亡当時安定した収入を得ていた被害者において、生存していたならば将来昇給等による収入の増加を得たであろうことが、証拠に基づいて相当の確かさをもつて推定できる場合には、右昇給等の回数、金額等を予測し得る範囲で控え目に見積って、これを基礎として将来の得べかりし収入額を算出することも許されるものと解すべきである。
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