逸失利益を算出する場合、就業している社会人であれば、交通事故発生時の具体的な年収を基準にしていくことが一般的です。
一方、交通事故の被害者が学生だった場合、まだ就労を開始していませんから、将来的にどういった職種につくのか、どの程度の収入を得るようになるのかが定かではありません。逸失利益という概念は元来、未来の収入を予想するというフィクションですが、学生の場合、その将来像が就労者の場合よりも更に不明確になってくるため、逸失利益の算定手法が争点になることがあります。
実際には就労開始していない学生の将来収入をシミュレーションしようとした場合、様々な可能性を考慮しつつ、その平均的な数値を採用するという考え方には一つの合理性があるでしょう。厚生労働省の賃金構造基本統計調査(賃金センサス)では、学歴・産業・性別・年齢などジャンルごとに割り出された統計上の平均賃金が公表されており、これを逸失利益算出の基礎にしていくことが一般的です。
問題となりがちなのが、個別具体的なケースにおいて、どういった集団の平均値に着目するかという点です。たとえば被害者が交通事故発生時に大学生であれば、高校卒業者や専門学校卒業者を含めた全学歴の平均賃金ではなく、大卒者の平均賃金を基礎に逸失利益を算出しても特に違和感は無いかと思います。ただ、例えば被害者が医学部生であったような場合には、更に高い基準での逸失利益を主張していきたいということもあるでしょう。
また被害者が中高生だったような場合は、将来の進路が不透明ですから、高校卒業者あるいは全学歴の平均賃金を基準にすることが無難かもしれませんが、被害者側としては大卒者平均で逸失利益を主張していきたいというケースもあるかと思います。
加害者側からすれば、こういった損害賠償額を押し上げる方向の主張をそのまま受け入れることについて消極的なスタンスであることが多いかと思いますが、判例上も以下のように個別具体的な事情に基づく逸失利益の修正は肯定される場合があります。
○被害当時に中学生であり、高校進学した男子生徒の逸失利益につき、大学進学を希望していることから賃金センサス男性大卒全年齢平均賃金を基礎とした事例(岡山地判平成5年2月25日)
○私大医学部四年生の死亡による逸失利益につき、賃金センサス企業規模計、医師(男子)25歳~29歳の平均賃金を基礎とした事例(名古屋地判平成11年5月31日)
学生の逸失利益算出においては、このように個別具体的な事情が有利な影響を及ぼす場合があります。当事務所で実際に損害賠償請求をお手伝いすることになった際には、そうした背景についても詳しくお聞きすることになると思います。