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カテゴリー '逸失利益'

学生の逸失利益

2011/03/10

逸失利益を算出する場合、就業している社会人であれば、交通事故発生時の具体的な年収を基準にしていくことが一般的です。
一方、交通事故の被害者が学生だった場合、まだ就労を開始していませんから、将来的にどういった職種につくのか、どの程度の収入を得るようになるのかが定かではありません。逸失利益という概念は元来、未来の収入を予想するというフィクションですが、学生の場合、その将来像が就労者の場合よりも更に不明確になってくるため、逸失利益の算定手法が争点になることがあります。

実際には就労開始していない学生の将来収入をシミュレーションしようとした場合、様々な可能性を考慮しつつ、その平均的な数値を採用するという考え方には一つの合理性があるでしょう。厚生労働省の賃金構造基本統計調査(賃金センサス)では、学歴・産業・性別・年齢などジャンルごとに割り出された統計上の平均賃金が公表されており、これを逸失利益算出の基礎にしていくことが一般的です。

問題となりがちなのが、個別具体的なケースにおいて、どういった集団の平均値に着目するかという点です。たとえば被害者が交通事故発生時に大学生であれば、高校卒業者や専門学校卒業者を含めた全学歴の平均賃金ではなく、大卒者の平均賃金を基礎に逸失利益を算出しても特に違和感は無いかと思います。ただ、例えば被害者が医学部生であったような場合には、更に高い基準での逸失利益を主張していきたいということもあるでしょう。
また被害者が中高生だったような場合は、将来の進路が不透明ですから、高校卒業者あるいは全学歴の平均賃金を基準にすることが無難かもしれませんが、被害者側としては大卒者平均で逸失利益を主張していきたいというケースもあるかと思います。

加害者側からすれば、こういった損害賠償額を押し上げる方向の主張をそのまま受け入れることについて消極的なスタンスであることが多いかと思いますが、判例上も以下のように個別具体的な事情に基づく逸失利益の修正は肯定される場合があります。

○被害当時に中学生であり、高校進学した男子生徒の逸失利益につき、大学進学を希望していることから賃金センサス男性大卒全年齢平均賃金を基礎とした事例(岡山地判平成5年2月25日)
○私大医学部四年生の死亡による逸失利益につき、賃金センサス企業規模計、医師(男子)25歳~29歳の平均賃金を基礎とした事例(名古屋地判平成11年5月31日)

学生の逸失利益算出においては、このように個別具体的な事情が有利な影響を及ぼす場合があります。当事務所で実際に損害賠償請求をお手伝いすることになった際には、そうした背景についても詳しくお聞きすることになると思います。

カテゴリー: 後遺症の損害 · 死亡事故の損害 · 逸失利益

年金は逸失利益になるか

2010/04/01

年金を受給している方が交通事故に遭って死亡した場合、年金は逸失利益として考慮されるでしょうか。
逸失利益算定上の問題は給与所得や事業所得について論じられることが多いですが、年金もまた事故に遭って死亡しなければ定期的に得られていたはずの収入です。そこで、こうした年金支給額相当額が、交通事故の被害によって失われたとして逸失利益性を認められるかどうかが問題となります。

この点、年金といっても老齢年金・遺族年金等と様々な種類があり、具体的な事情に応じて判例の判断も様々ですから、一概に結論を導くことはできません。

ただ老齢年金などの老後保障に関する年金は、実際に受給している本人だけでなく、その本人の収入に生計を依存している家族の生活保障という側面もあること、保険料を長年支払ってきたことに基づいて受給されていることなどから、逸失利益性が肯定される方向にあります。(最判平成5年9月21日など参照)

一方、遺族年金については保険料支払と年金受給の関係が間接的であること、遺族の生活支援という趣旨が強いことなどから、受給者である遺族本人が亡くなってしまった場合にまで、得られていたはずの収入が失われたとして逸失利益性を認めることは難しい方向になっています。(最判平成12年11月14日など参照)

年金を受給していた方の場合でも、稼働状況等によって実際の賠償額は変わってきますから、まずはご相談頂ければと思います。

カテゴリー: 死亡事故の損害 · 逸失利益

家事労働の休業損害・逸失利益

2010/01/14

たとえば専業主婦をしている方が交通事故に遭い、入院・通院をしている間の家事が出来なかったり、後遺障害が残って家事がうまく出来なくなったような場合に、休業損害や逸失利益が生じるのかという問題です。これは性別を問わず、主として家事労働に従事する者(家事従事者)が交通事故被害を受けた場合に該当する論点です。

この点、確かに家事従事者は日々の家事について給料を得ているわけではありません。しかし、この家事をもし他人に依頼した場合には相当額の対価を払わなくてはなりませんから、家事従事者は自ら行う家事について、財産上の利益を挙げていると考えられています(最高裁昭和49年7月19日判決)。

このように、家事労働に経済的価値が認められることは判例も肯定するところであり、交通事故被害者が専業主婦の場合でも、休業損害や逸失利益を請求することが可能となっています。
具体的な家事労働の価値については、女子雇用労働者の平均賃金相当額と推定するのが判例の立場です。実際の算定上は、賃金センサス上の女性労働者全年齢平均値または年齢別平均値などを基準にしていくことが一般的かと思います。

なお、被害者が一人暮らしの場合、他人のために家事労働をしているわけではないため、家事労働に関する休業損害や逸失利益は認められにくくなっているので注意して下さい。それ以外にも兼業主婦の場合、被害者が高齢の場合など、具体的な状況ごとに請求金額は変わってきますので、一つの参考として頂ければと思います。

カテゴリー: 休業損害 · 後遺症の損害 · 死亡事故の損害 · 逸失利益

労働能力喪失の有無が問題となる場合

2010/01/10

逸失利益を算定する場合も、まずは後遺障害等級が基準となります。後遺障害は、1級で100%、5級で79%、10級で27%といったように、等級ごとに労働能力喪失率の目安が定められています。

例えば年収1000万円の人が両足の指を全て失った場合(5級8号)、労働能力喪失率は79%ですから、基本的には1年間あたり790万円の逸失利益があると考えていくわけです。

しかし、実際に加害者側保険会社から交通事故の示談金額が提示される際には、後遺障害が現実の労働能力低下を生じさせていないとして、逸失利益がゼロないし相当に低いものとして構成されていることがあります。

これは、例えば肉体労働に従事している人が手指を失ったような場合は労働能力に大きな影響があると容易に想定できるのに対して、内勤の事務職員が顔面に傷を負ったような場合では、事務作業を遂行する上での支障はなく、労働能力喪失は生じていないのではないかという理屈です。これは外貌醜状のほか、生殖器の喪失、脾臓の摘出などにおいても問題となります。

確かに、顔面に大きな傷が残ったとしても、それ自体が事務作業の効率や品質に直接の悪影響を与えるわけではないでしょう。ただ、職場の対人関係や就職活動などの局面で全く影響が無いと考えることも難しいように思われます。被害者としても、こうした損害が賠償金額の算出において考慮されないというのでは、心情的に受け入れ難いのではないでしょうか。

判例は、外貌醜状について見ると判断が分かれているようです。ただ、逸失利益を否定する結論となった場合でも、慰謝料を増額させるという調整が入ることもありますから、損額項目にこだわらず、賠償額全体の増額を目指していくという視点で交渉や訴訟を進めることも必要になってくるかと思います。

カテゴリー: 後遺症の損害 · 慰謝料 · 逸失利益

逸失利益と将来の昇給

2009/12/21

逸失利益の算定基礎となる基礎収入は、基本的には事故前3ヶ月間の給与、または平均賃金などを基準に算出されます。

ただ、例えば25歳のサラリーマンが交通事故に遭って亡くなったような場合を想定してみると、順調に定年まで勤続していたとすれば、どこかの段階で一定の昇給があったと考えても不合理ではありません。そこで、亡くなった25歳時点で実際に受け取っていた給与をもとにして逸失利益を算定することは妥当なのかどうかが問題になります。

この点、全く昇給がなかったと考えることは不合理かもしれませんが、このご時世ですから解雇や減給の可能性も十分あると考えることも可能かもしれません。結局のところは可能性の話なので、はっきりした結論を出すことは誰にも出来ない部分です。

判例は、ある程度の勤続実績があり、安定した昇給が続いていたなど、客観的に昇給の蓋然性を立証可能なケースの場合には、逸失利益の算定にあたって将来の昇給を考慮することも許されると判示しました(最判昭和43年8月27日)。

この案件では、被害者(死亡時22歳)が死亡前月に受けた給与の額を基準とし、44歳までは同一会社に勤務している被害者と同程度の学歴・能力を有する者の昇給率と同じ程度の割合で毎年昇給するものとし、それ以後も定年となる55歳まで5%の昇給率で昇給を続けるものと考えて将来の給与額を算出した原審の判断が是認されています。

結局のところケースバイケースということですが、昇給体系や離職率などを具体的なデータとして提示できる案件であれば、被害者の職場にも協力を求めながら資料を集め、逸失利益の増額を主張していくことも十分検討する価値があるかと思います。

◎最高裁昭和43年8月27日第三小法廷判決
死亡当時安定した収入を得ていた被害者において、生存していたならば将来昇給等による収入の増加を得たであろうことが、証拠に基づいて相当の確かさをもつて推定できる場合には、右昇給等の回数、金額等を予測し得る範囲で控え目に見積って、これを基礎として将来の得べかりし収入額を算出することも許されるものと解すべきである。

カテゴリー: 死亡事故の損害 · 逸失利益



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