逸失利益を算定する場合も、まずは後遺障害等級が基準となります。後遺障害は、1級で100%、5級で79%、10級で27%といったように、等級ごとに労働能力喪失率の目安が定められています。
例えば年収1000万円の人が両足の指を全て失った場合(5級8号)、労働能力喪失率は79%ですから、基本的には1年間あたり790万円の逸失利益があると考えていくわけです。
しかし、実際に加害者側保険会社から交通事故の示談金額が提示される際には、後遺障害が現実の労働能力低下を生じさせていないとして、逸失利益がゼロないし相当に低いものとして構成されていることがあります。
これは、例えば肉体労働に従事している人が手指を失ったような場合は労働能力に大きな影響があると容易に想定できるのに対して、内勤の事務職員が顔面に傷を負ったような場合では、事務作業を遂行する上での支障はなく、労働能力喪失は生じていないのではないかという理屈です。これは外貌醜状のほか、生殖器の喪失、脾臓の摘出などにおいても問題となります。
確かに、顔面に大きな傷が残ったとしても、それ自体が事務作業の効率や品質に直接の悪影響を与えるわけではないでしょう。ただ、職場の対人関係や就職活動などの局面で全く影響が無いと考えることも難しいように思われます。被害者としても、こうした損害が賠償金額の算出において考慮されないというのでは、心情的に受け入れ難いのではないでしょうか。
判例は、外貌醜状について見ると判断が分かれているようです。ただ、逸失利益を否定する結論となった場合でも、慰謝料を増額させるという調整が入ることもありますから、損額項目にこだわらず、賠償額全体の増額を目指していくという視点で交渉や訴訟を進めることも必要になってくるかと思います。