民法711条は、生命を侵害された者の父母・配偶者・子について、固有の慰謝料請求権を規定しています。
交通事故の損害には、逸失利益や休業損害など経済的な損害のほか、傷を負ったことや後遺障害が残ったことによる苦しみ等の精神的な損害という側面もあり、これらを全て金銭に換算して損害額を算出することになります。
交通事故によって被害者が死亡してしまった場合、実際に損害賠償請求を行うのは被害者のご遺族となりますが、その場合の慰謝料額は「死亡した被害者本人の慰謝料請求権(を相続したもの)」と「被害者遺族の精神的損害に対する慰謝料請求権」の双方を含んだものになります。
では、被害者が「死亡」した場合でなければ、近親者の精神的損害に対する慰謝料は認められないのでしょうか。
この点、最判昭和33年8月5日判決は、被害者が死亡した場合に必ずしも限定せず、死亡に比肩するような精神的苦痛を受けたような場合には、その近親者にも固有の慰謝料請求権が生じうるとしました。
これは両下肢完全麻痺(東京地判平11.7.29)、植物状態(横浜地判平12.1.21)など、基本的には被害者本人に重度の後遺障害が残った場合に認められる損害項目です。
◎民法第711条(近親者に対する損害の賠償について)
他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。